うしろから撮るな 俳優 織本順吉の人生

名脇役が最後に演じたのは「自分自身」か

2025年3月29日(土曜日)より新宿K’s cinemaにてロードショー!

登場人物:織本順吉/中村矩子 
監督・撮影:中村結美 
制作:有限会社かわうそ商会 
2024年/日本/カラー+モノクロ/82分 
© かわうそ商会

解説

撮る者 vs 撮られる者、
それが最期の対話だった

日本映画に欠かせない名脇役の最晩年に娘のカメラが迫る。
4年間にわたる執念のドキュメンタリー

脇役一筋70年、死の直前まで現役を貫き、92歳で亡くなった俳優・織本順吉。2000本以上ものTVドラマ・映画に出演し、地味だが情感あふれる脇役を演じ続けた織本。だがその裏では、家族と共に生きられない一面があった。その父へ、復讐心からカメラを向けた娘。老いて、体の自由が効かなくなり、セリフ覚えが覚束なくなり、感情を抑えることができず、家族相手に子どものように泣きわめく…。そんな晩年の父を、娘の視点で赤裸々に撮り続けた4年間…。それはカメラを挟んだ格闘であり、カメラを挟むことでようやく向き合えた父と娘の記録でもあった。そして続けるうち、自らの業をさらけ出しているのは、撮られる父か、撮り続ける娘か、わからなくなっていった。

「老いるとは何か? 家族とは何か? 生を全うするとは何か?」 誰もが抱えるこの命題に、父の死を通して向き合う…これは家族のドキュメンタリーである。

「中村正昭で
生きていくしかないやん」

父の“仮面”は剥がれるのか?
そのとき家族は。

2013年、認知症の兆候が出始めた織本順吉。4年間の撮影を通し徐々に老いは進み、撮影ではミスを連発し、家族に当たり散らす。そんな父に娘は容赦ない言葉を向ける。「嘘ばっかり」「セリフ間違えてたやんか」「もうお仕事は来ないかもしれないのにどうして生きていくん?」。撮影現場や移動中、衣装合わせなど織本の仕事現場から、家族とのプライベートな時間まで、カメラは容赦なく至近距離から織本を撮影し、俳優「織本順吉」の仮面を剥がそうとする。一方、“老い”と見せかけて“演じて”いるのか、わからなくなる瞬間がある。果たして、カメラが“老い”を撮らされているのだろうか?ケンカを仕掛けたつもりが、こちらが踊らされているのだろうか─?そしてカメラは、俳優である織本を支えるため、自らも俳優であった道を諦めた母の姿も映し出す。家族とは25年間別居生活を送っていた織本。娘だからこそできた赤裸々な撮影が、カメラを通して初めて家族が対峙するスリリングな瞬間を捉える。

俳優の老いを真正面から捉える

「体のこの辺にな、演じる役がいつもまといついてんだよ。それを引き離すことができないんだよ。そんな気持ちわかんねえだろ」。カメラが明らかにするのは、“俳優の老い”でもある。かつてセリフ覚えの良さから数々の役柄に起用されてきた織本。その人生は「覚えては忘れる」の繰り返しであった。「俺たちの仕事って、覚えたセリフを早く忘れなきゃダメなんだよ。次が入って来ないんだよ。そんなことあの医者にはわからない」。70年にわたり俳優人生を歩んできた織本にとって「忘れる」ことは必須の行為であった。糖尿病との闘病、ままならないセリフ覚え、俳優生活初の降板……今まさに老いに直面する織本の姿は、「演じる」ことを職業とする人間が老いと格闘する姿を映し出している。

作品概要

「私は老いを認めない織本に
それを突き付けようと撮影を始めた」

本作は、織本の娘・中村結美が2015年夏からの4年間、織本順吉に公私にわたり密着し、ホームビデオで織本の「素」の姿を明らかにしようとした記録である。カメラが収めるのは、糖尿病を患うも、食後血糖値を測るのを怠ったこと指摘され激高する姿、セリフ間違いにより10回もNGを出す姿、家族に「もう車の運転はやめてほしい」と言われまたしても激高する姿、長い役者人生における初めての降板、そして俳優人生初の「空白」……カメラは容赦なく、公私に渡り織本の“老い”を晒し出す。そしてまた、娘・中村が父に対して果敢に挑む様子がヒリヒリと映し出される。なぜ織本は、みじめな姿をカメラにさらし続けるのか?これも“演じて”いるのだろうか?そしてカメラは、織本の最期の瞬間を映し出す─。

登場人物

織本順吉 (おりもと・じゅんきち)

1927(昭和2)年2月9日、神奈川県生まれ、2019年3月18日没。本名・中村正昭。
高校卒業後、大手電機メーカーを経て45年に新協劇団に入団。「破戒」の丑松役で初舞台。その後、岡田英次、西村晃、木村功らと劇団青俳を結成。80年の同劇団解散後はフリーに。映画・テレビドラマほか幅広く活動し、総出演作は2000本を超える。主な出演作品は「真昼の暗黒」(監督・今井正)、「人間の條件」(監督・小林正樹)、「仁義なき戦い 【組長の首】【完結篇】」(監督・深作欣二)、「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」(監督・山田洋次)、大河ドラマ「新・平家物語」「秀吉」、連続テレビ小説「澪つくし」「わかば」、「長七郎江戸日記」、金曜ドラマ「週末婚」(脚本・内舘牧子)「夜のせんせい」「Nのために」、「3年B組金八先生・第5シリーズ」(脚本・小山内美江子)、など。遺作となったのは、2017年の「やすらぎの郷」(脚本・倉本聰)。

織本順吉 年譜

  • 1927(昭和2)年
    2月9日神奈川県生まれ。
  • 1929(昭和4)年
    2歳で母を亡くす。
  • 1942(昭和17)年
    15歳で父を亡くす。
  • 1945(昭和20)年
    神奈川県立工業学校在学中に徴兵検査を受け甲種合格するも、そのまま終戦を迎える。卒業後は徴用先の大手電機会社に勤務。そこで労働者演劇にふれ、1949年 村山知義率いる新協劇団へ入団し、舞台「破戒」で初舞台を踏む。
  • 1954年
    岡田英次、西村晃・木村功・高原駿雄らと劇団青俳を結成、翻訳劇、安部公房ら新進作家の手がける新作劇などに幹部俳優として出演。後に妻となる中村矩子(のりこ)に出会う。
  • 1950年代
    独立プロダクション系の映画…1952年「山びこ学校」(今井正監督)1953年「雲ながるる果てに」(家城巳代治監督)「女ひとり大地を行く」(亀井文夫監督)、などに、劇団俳優と共に数多く出演。1955年「美わしき歳月」(小林正樹監督)1956年「真昼の暗黒」(今井正監督)などで印象を残す。
  • 1960年
    劇団青俳の研究生だった中村矩子と結婚。長女・結美が誕生。
  • 1963年
    次女・菜美が誕生。
  • 1964年
    妻子は神戸、織本は東京という別居生活を25年に渡って続ける。
  • 1970~80年代
    1973年「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」(山田洋二監督)1974年「仁義なき戦い 完結篇」(深作欣二監督)などに出演。またテレビドラマではNHKの連続テレビ小説「マー姉ちゃん」「澪つくし」、TBS日曜劇場や「大岡越前」日本テレビ「伝七捕物帳」フジテレビ「銭形平次」など時代劇にも出演。80年代は二時間ドラマを中心に活躍。
  • 1990年
    ゴルフ好きが昂じて、那須に居を構える。
  • 2000年代
    TBS「3年B組金八先生」第5シリーズ(小山内美江子脚本)の大西元校長役などで活躍。
  • 2010年代
    80歳後半を迎えた2010年代もTBS「夜のせんせい」「Nのために」、WOWOW「5人のジュンコ」、映画「はやぶさ遥かなる帰還」(瀧本智行監督)「土竜の唄潜入捜査官REIJI」(三池崇史監督)「0.5ミリ」(安藤桃子監督)「blank13」(齊藤工監督)に出演。遺作ドラマは、「やすらぎの郷」(倉本聰脚本)。

スタッフ

監督 中村結美 (なかむら・ゆみ)

1960年、東京生まれの神戸育ち。 脚本家・放送作家、テレビ・ディレクター。
銀行員を経て、81年大阪・毎日放送のラジオ「三菱ダイヤモンドハイウェイ」で初仕事。
大阪で、よみうりテレビ「三枝の爆笑夫婦」の取材、クイズ作家を経て、1986年に上京。
NTV「追跡」「はじめてのおつかい」、フジテレビ「ムツゴロウとゆかいな仲間たち」「ワーズワースの庭で/冒険」、TBS「神々の詩」などの情報ドキュメンタリー番組の構成を手がける。2004年より韓流にもジャンルを広げ、CS、BSで 「冬のソナタ~マイ・メモリー」「ソン・スンホン来日密着」 「韓タメ!」「どっぷり衛星劇場」の番組、また「花より男子・卒業/同窓会」 「国連の友シン・スンフンコンサート」 などのイベント、大規模ファンミーティングの構成を担当。2008年頃からは、NHK「わたしが子供だったころ」「総合診療医ドクターG」など、再現ドラマを多用したドキュメンタリー番組の脚本・構成を手がける。NHK-BS1「沁みる夜汽車」にはディレクターとして参加。現在は歌舞伎の中村屋をホストに江戸のエンタメを紹介するBSフジ「華の新春KABUKI」を構成。

上映情報

地域 劇場名 公開日 備考
東京都 新宿K's cinema 2025/3/29(土)〜

3/29(土)10:00の回上映終了後 初日舞台挨拶&トーク 
ゲスト:根岸季衣さん(俳優)、中村結美監督
3/30(日)11:40の回上映終了後 中村結美監督によるティーチイン
※以降、トークイベント予定あり。

3/29(土)~4/4(金) 10:00~/12:00~★
4/5(土)~4/11(金) 10:30~/12:20~
★3/30のみ10:00~/11:40~
※4/12以降は追って劇場公式サイト他にてご案内いたします。

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